箱男 / 安部公房
箱男
(BK1594)
安部公房。新潮社。1973。初版。ハードカバー。箱入り。箱男だけに。値札剥がし跡あり。
石川淳氏評
人類といふやつはそろそろ滅亡したほうがよささうだとしても、さしあたつて人間の生き方になにか新しい形式を見つけることができないものだらうか。安部公房君は新作『箱男』においてその智慧を出して見せた。人間みづから箱といふサナギを作つてその中に入りこめば、状況はたちまち変わつて、ここに一箇の生物として今から出直すことになる。この生物の成行はいかが。記録はこの一冊にあふれてゐる。
ドナルド・キーン氏評
『箱男』を読了して、私は輝くような場面の連続で頭が一杯になり、分析するよりも、もう一度読んでみたいという気持ちが強い。いかにも常識的な出だしから全く不思議な世界に発展するのだが、読者が一度その世界に足を踏み入れたら、どんな幻想でもまことしやかに思われるばかりでなく、しまいにはその幻想的な世界は、われわれの日常生活に他ならないことに気がつく。一行の無駄もないこの傑作を書くのに、安部さんが六年かかったということは、けだし当然である。